福岡地方裁判所 平成8年(わ)1103号 判決 1997年3月17日
本籍
兵庫県宍粟郡山崎町加生三四六番地
住居
福岡県春日市大字上白水三三二番地の一 千秋荘二〇一号室
会社役員
黑阪亮太
昭和一六年三月一三日生
本籍
長崎県佐世保市戸尾町一八番地
住居
福岡市博多区住吉五丁目二七番六号メモリアルハウス二〇三号
会社役員
大神一郎
昭和一六年三月七日生
本籍
鹿児島県肝属郡高山町新富六三番地
住居
同町前田四八六七番地九
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遠矢純則
昭和一五年八月一一日生
右の三名に対する各相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官田村章、弁護人前畑健一(私選・被告人黑阪につき)、弁護人岡崎信介(私選・被告人大神につき)、弁護人池田稔(私選・被告人遠矢につき)出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人三名をそれぞれ懲役一〇月及び罰金一〇〇万円に処する。
被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、いずれも金五〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
被告人三名に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれその懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人三名は、濵畑康正、坂田泰司らと共謀の上、坂田泰司の実父坂田嘉久が平成五年二月一四日に死亡したことに基づく坂田泰司及び他の相続人三名の取得財産に係る相続税を免れようと企て、坂田泰司らの相続税の実際課税価格が五億三八〇八万二〇〇〇円で、これに対する相続税額は九九九四万六七〇〇円であるにもかかわらず、取得財産のうち一億一〇〇〇万円余りの預金等を除外し、被相続人坂田嘉久が奥薗道明から借入金二億五〇〇〇万円の債務を負担していたと仮装するなどした上、同年九月二八日、福岡市中央区天神四丁目八番二八号所在の福岡税務署において、同税務署長に対し、坂田泰司らの相続税の課税価格が二億一一七五万四〇〇〇円で、これに対する相続税額は一一九九万四四〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書(ただし、同申告書上は、右課税価格を二億一一七五万六〇〇〇円と誤記)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右申告税額と正規の相続税額との差額八七九五万二三〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人三名の当公判廷における各供述
一 被告人黑阪(乙二ないし五)、被告人大神(乙八ないし一〇)、被告人遠矢(乙一四ないし一七)の検察官に対する各供述調書謄本
一 高原博喜(甲二ないし五)、朝木正生(甲六ないし八)、奥薗道明(甲九、一〇)坂田泰司(甲一一ないし一六、二四)、東郷瑛子(甲一七)、坂田美智子(甲一八)、坂田佳紀(甲一九、二八)、東郷幸治(甲二七)、石津三百子(甲二六)、畠山隆(甲二五)の検察官に対する各供述調書謄本
一 報告書謄本(甲一)
一 捜査報告書謄本(甲二九)
(法令の適用)
罰条
いずれも平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)六〇条、相続税法六八条一項
刑種の選択
いずれも併科刑を選択
労役場留置
いずれも改正前の刑法一八条
刑の執行猶予(懲役刑につき)
いずれも改正前の刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、坂田嘉久の相続人である坂田泰司が、相続税の節税を考えていたところ、知人の税理士から同税理士の知人である被告人黑阪を紹介され、更に同被告人を介して、同和団体の会長と称する濵畑康正、濵畑らから脱税等の依頼者を捜してくれるように言われていた被告人遠矢、同大神らを紹介され、他の相続人とも相談の上、同和団体の関係者に相続税の不正申告手続を依頼し、各被告人らと共謀して、坂田泰司ら四名の相続税を八七〇〇万円余り脱税したという事案である。
被告人三名が本件を敢行した動機は、被告人黑阪については主として、被告人大神及び同遠矢については専ら脱税の依頼者を紹介することによって、相続人から受取る手数料の分配に預かりたいというもので、言語道断である。本件脱税のほ脱率は、約八八パーセントと高率に上っている上、その態様は、預金等を除外した上、被相続人が、同和関係者のグループの者から、多額の債務を負っていたように装い、予想される税務調査に対しては、同和関係者による申告であることを誇示して、調査自体させないように圧力をかけたもので、悪質である。本件の報酬として、被告人黑阪は脱税請負のグループから三〇〇万円、納税義務者の坂田泰司から約五〇万円をそれぞれ受け取っており、被告人大神は三〇〇万円、被告人遠矢は四五〇万円をそれぞれ報酬として分配を受けており、その金額もいずれも高額である。更に、犯行後の事情としても、脱税の事実が発覚しそうになるや、架空債務が真実のものであるかのように装うために証拠書類を捏造したり、架空債権者に被相続人の特徴を覚えさせるなどの種々の工作を行い、また坂田泰司は除外した預金等についてのみ修正申告するなど、芳しくない。加えて、脱税行為は、申告納税制度を採用している我が国の税制の根幹を揺るがしかねないもので、強い非難に値する行為であることをも併せ考慮すると、被告人三名の刑事責任はいずれも重いと言わなければならない。
しかしながら、本件を主導的な立場で行ったのは共犯者の濵畑であり、被告人三名は濵畑と比較すると、従たる立場にあること、被告人三名はいずれも本件を反省し、今後は他人の脱税に関与しないことはもとより、自分自身の税金などについても正しく申告し納税すると述べていること、本件についても被告人黑阪は二五〇万円、被告人大神は一〇〇万円、被告人遠矢は三五〇万円を、納税義務者に代わって第三者納付を行い、本件で自分が手にした脱税報酬の吐き出しを行ったこと、被告人黑阪及び同遠矢にはこれまで前科がなく、また被告人大神にも自由刑の前科がないこと、各被告人の妻や知人が、今後の各被告人の指導監督を約束していることなど、各被告人のためにそれぞれ酌むべき事情も認められるので、これらを総合考慮すると、懲役刑については今回に限り刑の執行を猶予するのが相当であると判断し、主文のとおり刑の量定をした。
(求刑 被告人三名につき、いずれも懲役一〇月及び罰金一〇〇万円)
(裁判官 鈴木浩美)